所長メッセージ
兵庫県森林動物センターが設立されて10年の節目に、所長という大役を拝命し、皆様の支援のもと、微力ながら兵庫県の「ワイルドライフ・マネジメント」のさらなる推進に務める所存です。
兵庫県では、人と野生動物との調和のとれた共存に向けて、科学的な根拠に基づく野生動物管理の拠点としての「森林動物研究センター」の整備ならびに管理実行のための「森林動物専門員制度」を創設しました。このような、しっかりとしたモニタリングと管理体制の整備によって、集落単位での被害状況や大型獣の分布・生息密度の推移に基づいた科学的な管理が実現しました。これらの成果は、ワイルドライフ・モノグラフ、パンフレット、各種データベースや出猟カレンダー報告としてホームページで公開されているほか、「野生動物の保全と管理」にかかわるシンポジウムなどで報告されています。また、最近の成果として、ツキノワグマの保護政策によって危機レベルを下げることに成功したことや、都市に侵出したイノシシの排除が特筆されます。以上のように、森林動物研究センターは、科学的・計画的な「ワイルドライフ・マネジメント」の基盤を構築して、大きな成果を上げてきました。
一方で、新たな課題も明確になってきました。増加率の高いシカ・イノシシなどの大型獣の分布拡大や個体数増加を抑制することは容易ではないことです。人口減少が著しい中山間地域では、地域との連携による取り組みが、ますます重要となって参りました。また、県境をまたがって広く分布する大型獸の管理は、単一の県だけでは実行できません。隣接府県を含めた広域的管理の重要性が認識されつつあります。地域持続性を念頭においた地域連携の強化と隣接府県との共同による広域管理に向けた仕組み作りに務め、関西広域連合における先駆的な研究機関としての役割を果たしていきたいと念じています。
平成28年6月
兵庫県森林動物研究センター
所長 梶 光 一
名誉所長メッセージ (H25年度まで所長、R元年度まで研究統括監)
兵庫県森林動物研究センターの設立目的は、シカを始めとした野生動物による農林業被害や生活被害を解消するために、地域の実情に合致した実現可能性の高い方策を開発すると同時に、地域個体群の遺伝的多様性が損なわれている場合には保全の方策も併せて明らかにすることです。そのためには、まず科学的な基礎情報を収集するという、地味ではありますが極めて重要な活動を過去5年間にわたって継続してきました。
広域化、多様化する農林業被害や生活被害を軽減しつつ野生動物と地域住民との調和のとれた共生社会を実現することは、生易しいことではありません。被害に苦しんでいる地域では、たとえ生物多様性が損なわれるとしても、獣害の元凶である動物たちを絶滅してほしいと願う住民がいるかもしれません。また野生動物の生息地から遠く離れた都会では、たとえ獣害があったとしても野生動物を 1頭たりとも殺処分してはならないと思う住民がいるかもしれません。こうした相反する考えの人びとに心底から納得していただくには、科学的なしっかりとした裏付けを基に、「ワイルドライフ・マネジメント」を推進しなければなりません。
兵庫県における地域問題、とりわけ中山間地域の活力を回復するには、高齢化による労働力不足や農林生産物の価格低迷という根本的な問題を解決しなければなりませんが、「野生動物被害が大きいから耕作放棄地が増え、耕作放棄地が増えるから野生動物被害がさらに広がる」という悪循環を断ち切る必要があります。そのために本研究センターは、「ワイルドライフ・マネジメント」を推進する拠点施設として、活動を展開していきたいと考えております。
平成24年12月
林 良 博
故:河合雅雄先生メッセージ
※当センター創設にご尽力 開設当初より名誉所長・所長を歴任(R元年度まで)
<H25年8月のセンターHP ご挨拶より>
野生動物による農作物の被害が全国的に増大しており、ときには人身事故さえ発生しています。主として、シカ、イノシシ、サル、クマそれに外来種のアライグマによるものです。全国の被害額は平成23年度には200億円を超し、兵庫県では約6億円ですが、それよりも精神的な被害の方が大きいのです。半年間丹精込めて作った稲や野菜を荒らされては、腹が立つのは当然です。野生動物による野荒しのために、耕作地の放棄が増えています。早急な対策が求められていますが、それも場当たり的ではなく、本格的で強力なものでなければなりません。本研究センターはこれらの問題を解決し、人と野生動物の調和した世界を実現するために平成19年度年に設立されました。
兵庫県は北海道を除いては日本ではシカの数が最も多く、農作物や森林の被害に悩まされてきました。当然駆除して数を減らさねばなりません。しかし、何頭獲れば数が減るのか。まずそれには、県内に何頭シカがいるのかを知る必要があります。センターでは個体数推定のための調査とともに、猟友会の人たちの協力を得て基礎資料を集め、個体数推定を行った結果、平成22年11月の時点で15万3千頭の値が得られました。出産率や死亡率など必要なデータを基に、3万頭捕獲作戦が開始され、平成24年11月には生息数は12万2千頭に減っていることがわかりました。防御ネットなどを併用して捕獲を続ければ、被害をほとんど失くすることができるでしょう。それとともに、人間とシカが仲良く暮らしていくための方策が立てられます。
所長 河合 雅雄